〜 信仰を訪ねて 〜

沖縄の信仰A 女性とオナリ神

 
 料理にお酒・音楽など、その景観ばかりでなく様々な点で近年注目を集めている沖縄県。本州とは異なる歴史を歩む中で形成された文化は、独自の信仰をも育みました。彼らの信仰の中心的建造物である首里城の華やかさは、ご存じの方も多いでしょう。
 既にこのコーナーで、ノロ・ユタという女性宗教者、或いはウタキという聖地について取り上げました。けれども、沖縄の信仰にはまだまだ興味深い面がたくさんあります。今回よりそのいくつかを眺めてみましょう。

 
●オナリ神
 以前沖縄の女性宗教者についてご紹介した際、ノロは国や村の公的祭祀を司り、ユタは日常生活でのまじない事を請け負う存在であることをお話ししました。役割は異なりますが、両者とも特別な立場にある巫女といえます。
 けれどもこういった巫女だけでなく、沖縄では女性全般に特別な力が宿ると信じられてきました。その最も顕著な例が、オナリ神信仰です。
 オナリとは姉妹のことを指し、姉妹の霊力に対する信仰がオナリ神信仰と呼ばれます。では姉妹の霊力とはいったい何なのでしょう。それは例えば、男兄弟が航海や戦争という命の危険を伴う場所へ向かう際、彼らに災いがないよう加護する霊力のこと。そのため男性は、姉妹の髪などをお守りとして危険な場所へと赴きました。
 オナリ神信仰は宮古島を除く沖縄全体に古くから根付いており、例えば遠方で危難に遭った兄を救うために、妹が白鳥となって救いに行くという美しい伝説まで語り継がれています。
 また以前ご紹介した、ノロの頂点に立つ琉球国の最高祭祀者である聞得大君(きこえおおきみ)。この女性も国王の姉妹より選ばれ、国王並びに国を守護する力を期待されたのです。神官としての女性と、共同体をまとめるその兄弟という関係は、面白いことに有名な邪馬台国の卑弥呼とその弟の働き方にもよく似ています。
 このオナリ神信仰は姉妹兄弟間の身近な守護関係ですが、広い見方をすれば女性と男性の守護関係と捉えられます。つまり男性にとって女性は、霊的な守りを与えてくれる存在と信じられているのです。

●セジ
 さて、こういった霊力のことを沖縄では「セジ」と呼びます。オナリ神やノロ・ユタとして信仰を集める女性は、男性より高いセジを備えているという訳です。
 ただこのセジという霊力は殊更特別なものではなく、人間は誰でも多かれ少なかれセジを持ち、また自分以外のセジの影響を受けると考えられています。そして自分がコントロールできない現象は、すべてセジという目に見えない力に拠るものとするのが、沖縄で育まれた世界観なのです。私たちがよく耳にする、オーラや気といったものと通じるかもしれませんね。
 またこのセジは、人間の中から生まれるものというより外部から与えられるものと考えられ、例えばある日突然神がかりするユタのように、自分の好むと好まざるとにかかわらず高いセジを与えられる人もいるのです。
 さらに、このセジは人から人へとやり取りすることも可能なのです。そして神事に携わる女性が祖先よりセジを受け継ぐ行事、それがイザイホーと呼ばれるとても珍しい祭りです。
 次号ではこのイザイホーをご紹介しましょう。