宮司就任の御挨拶
          宮司 富岡興永

  
 向暑の折、氏子崇敬者の皆様、また斯界の先輩、朋輩の皆様には日々御精励にお過ごしの御事と拝察慶祝に存じ上げます。
 愚生儀、6年前いささか健康に不安を覚えましたことから宮司職を辞任し、名誉宮司として御神徳を賜って参りました。お蔭をもちまして、ここ数年第2の人生を堪能させていただくとともに、国や社会、そして神社界をめぐる環境につき、余裕のある気持ちで見渡す機会を得られました。
 愚考しますに、この50年余り日本人が選択したのは、「虚構の富」への道でありました。「生きる」ということがすべてに優先する時代を過ごした者といたしましては、その全てを否定するつもりはございません。しかし日本が曲がり角に差しかかりました現在、様々な組織において、身を切ってでも時代の生み出した「負の遺産」を清算することが求められるようになって参りました。小社とてその例外ではありませんでした。
 虚構の富は夢の如く雲散いたしましたが、本当に失われたのは、志のために自分を律する日本人の心であり、またそのような心を育む手段だったように思われます。
 「真の富とは真の人材」、今このことを若き人達に伝えることが、愚生最後の責務であるとの周囲の勧奨拒みがたく、このたび心機一転、神社と社会に身命を捧げる所存にて宮司に復職することとなりました。皆様におかれましてはこの意のある所をお汲み取りいただき、旧に倍する御鞭撻、御支援をお願い申し上げることで、再任の御挨拶とさせて頂きたいと存じます。


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